「見積もりは俺しかできない」── 多くの町工場で、見積もりは社長か工場長の専任業務です。これは2つの大きな問題を生みます。その人が忙しいと会社の商機が止まること。そしてその人が居なくなったら値決めの基準ごと消えることです。
見積もりのスピード改善については別の記事で書きました。この記事では、その手前にある「属人化そのもの」をどう解消するかを掘り下げます。
見積もりが属人化する本当の理由
「マニュアルがないから」ではありません。分解すると、ベテランの見積もりは3層でできています。
| 層 | 中身 | 引き継ぎ難度 |
|---|---|---|
| ① 計算層 | 材料費・工数×レート・外注費の足し算 | 低 — 式にできる |
| ② 推定層 | 図面から工数と歩留まりを読む「目」 | 中 — 過去データで近似できる |
| ③ 判断層 | 顧客との関係、混み具合、戦略的な値付け | 高 — 人に残すべき領域 |
属人化解消の失敗は、この3層を区別せず「全部マニュアル化しよう」とすることから起きます。③は本来、経営判断であり、属人で構いません。引き継ぐべきは①と②だけです。
ステップ1: 過去の見積もりを「資産」に変える (1週間)
ベテランの頭の中の②推定層は、実は外部化された痕跡があります。過去の見積もりと、その実績 (実際にかかった工数) です。散らばっている見積書・図面・実績データをフォルダに集めるだけで、属人知の大部分が「検索できる形」になります。
ここで重要なのは「見積もりと実績の差」も残すこと。どの種類の仕事で見積もりが甘くなりがちか、というベテランの癖まで含めて資産になります。
ステップ2: AIで「先生の代わりに過去問を引く」仕組み (1〜2週間)
集めたデータをAIで検索可能にします。若手が図面を見ながら「これに似た過去案件は?」と聞くと、類似品の見積もりと実績が出てくる。ベテランに聞く代わりに、ベテランの過去の判断に聞ける状態です。
これは①計算層の自動化と合わせると、若手が「見積もりの土台」を自力で作れることを意味します。最終チェックはベテランがやる。でも、ゼロから作るのと土台を直すのでは、ベテランの拘束時間が10分の1になります。
ステップ3: ③判断層を「言葉」にして共有する (継続)
最後の判断層は、無理に数式化しません。代わりに、値決めの最終判断のときにベテランが何を考えたかを、一言だけ記録する運用にします。「この客は支払いがいいから5%引いた」「今月は機械が空いてるから取りに行った」── この一言の蓄積が、次世代の判断教材になります。
音声で記録してAIに整理させれば、ベテランの負担は1件10秒。技能継承の記事で書いた「書かせない・話させる」原則は、値決めの継承でも同じです。
効果: 属人化解消は「攻め」の投資
- 社長・工場長の見積もり拘束時間が大幅減 → 本来の仕事 (営業・現場改善) に戻れる
- 回答スピードが上がり、相見積もりでの勝率が上がる
- 若手が原価構造を学ぶ教材になり、育成が早まる
- 承継の最大の不安要素 (値決めの消失) が消える
費用は、過去データの整理+検索AI+見積もり下書きの構成で55万〜88万円が目安。愛知県のDX補助金やものづくり補助金の対象になり得るテーマです。
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